カウンセラー コラム

「正義感」という名の落とし穴

2018年3月2日

あっという間に2018年も2か月が経過し年度末。来月からは新入社員が仲間に加わってくるので、先輩として彼らに正しさを教えなければ!なんて張り切っている方もいらっしゃるかもしれません。

さて、今回のカウンセラーのコラムでは、正しさ、「正義感」について考えてみたいと思います。

「正義感」という言葉を辞書で調べてみると「不正なことを見て義憤を感じる気持ち」「正しいすじみち。人がふみ行うべき正しい道」と書かれています。

2017年後半、相撲界で起きた日馬富士暴行事件を覚えている方も多いと思います。
この事件もそうですが、学校で起こる体罰なども、暴力を振るう側の思いとしては、自分の中での”こうあるべき”と信じている正しさから逸脱した相手に対し、”反省して欲しい””心改めて欲しい”というまさに「正義感」からきている行為なのではないでしょうか。
この場合、暴力を振るう側の”こうあるべき”という考えは、一般的に正しくて、間違っていないでしょう。まさに「不正なことを見て義憤を感じた」と言えるかもしれません。

しかし。

3月コラム①
一方で、暴力を振るうという行為は正しいのでしょうか。それは、常識的に考えれば正しいとは言えず、間違っていると、誰もが思うでしょう。

つまり「正義感」も行き過ぎてしまうと、その思いが、相手を懲らしめてやろうとか、罰を与えなければならない、というような、間違った行動を引き起こしてしまう恐ろしさが潜んでいると思います。

ひるがえって、皆さんご自身はどうでしょうか。

つい「こうあるべき」といった思いが強かったりすると、その通りにならない相手に対して強く責めてしまったり、自分の意見を押し付けてしまったりしていないでしょうか。もしくは、相手に対して強い態度を取れない方は、自分自身がその感情に振り回されてイライラしたり、相手を憎んでしまったり、と苦しい思いをしていないでしょうか。

このように、「正義感」が間違った行動の引き金となったり、自分自身を苦しめるようになったりすることは「正義感」という名の落とし穴かもしれません。

3月コラム②
そして、実はこの行き過ぎた「正義感」は、他者のため(と本人は思っている)に、自分自身がリスクを背負って相手を懲らしめようという哺乳類に備わっている機能で、脳科学的には「利他的懲罰」というものなのです。

人間には、家庭や友人仲間、会社組織といったさまざまな共同体があります。その共同体を乱すような対象に対し、攻撃をして共同体を守り、そうすることで、仲間意識を強くしたり、結束を高めようとするわけです。

特に人間は、社会性が高いため、その共同体を守ろうとする衝動が強いのです。しかもその相手を罰する行為には、脳内反応(作用)では強い快感が報酬として返ってきます。世間でいじめやパワハラのニュースが後を絶たない理由として、この「利他的懲罰」と、結果として得られる「快感」も、絡んでいるのかもしれません。

カウンセリングでお話しを伺っていると、その考え方はもっともだと思われるのですが、一方で、その考え方に固執してしまっているがゆえに、ご自身が苦しい思いをしていらっしゃるように見受けられるケースもあります。それが一概に駄目というわけではありません。ただ、ご自身が辛い、苦しい、生きにくいと思っているのであれば、以下のように考えてみてはいかがでしょうか。

まず一つは、私たち人間には、哺乳類の仕組みとして「利他的懲罰」という仕組みが備わっているということに気づくことです。
そしてもう一つは、次に記載する例のように、自身の考え方の幅を広げたり、緩めてみたりするという方法です。

3月コラム③例)
・本当にあなたの考え方だけが正しいのでしょうか。
・違った角度から考えてみたらどうでしょうか。
・〇〇さんだったら、どのように考えると思いますか。
・その正しさを守り抜かなければ全てが駄目になってしまいますか。
・その考えにより、周囲や自分自身を傷つけていませんか。

人は誰もが完璧ではありません。「こうあるべき」から「こうであれば望ましい」と少し楽に考えてみると、自分に対しても、周囲の人に対しても寛容になり、「正義感」という名の落とし穴にはまらずに済むかもしれません。

【参考文献】
・中野 信子著(2017)『ヒトは「いじめ」をやめられない』, 小学館新書.
・デビッド・D・バーンズ著, 野村総一郎・夏苅郁子・山岡功一・小池梨花・佐藤美奈子・林建郎 訳(1990)『いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法』, 星和書店.
・(2018)『JAICO産業カウンセリング NO.0357』,(1月号), 「いじめの原因は脳にある」中野 信子氏 新春インタビュー.