カウンセラー コラム

~人生を味わうために~ 自由への扉を開く、自律というカギ

2018年5月10日


新年度を迎え、新入社員をはじめ、異動など新しい環境で仕事を始めた方も多いと思います。また、新規プロジェクトや 目標に向け、気持ちを新たに「頑張ろう!」とエネルギーが湧いてきたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この季節は、なにかと気を使うことも多くありますが、皆さんは人の目ばかり気にして不安になっていませんか? また、結果や評価ばかり気にして自分に自信が持てないな、と感じることはありませんか?

今回は、どうしたら人から束縛されず自律した生き方ができるか、そのヒントをお伝えします。

皆さんは、なにか気持ちがモヤモヤして晴れないとき、心の声(感情)に気づくことができますか?
「新しい仕事や環境が合わない」
「人間関係をうまく築けない」
「スキル不足を感じる」
「描いていた理想と現実のギャップに戸惑う」
「新たな目標が見いだせない」
など、仕事をはじめ、プライベートでも私たちはストレスを感じることが多くあります。

不安や怒り、恐怖などを感じる時は、“期待しているものや欲しているものが得られていない”という心のサインかもしれません。感情に向き合うことより、私たちは自分が必要なものを得ているかどうかわかります。それを手がかりに、2つの問いかけができます。

① 何を得ていないのか
② それは本当に必要なのか

それにより、欲しいものを得る方法を改めて考えたり、自分の期待や欲求が不必要や無理なものだったと気づき執着から離れたりすることもできるでしょう。

ところが、この感情に気づき、向き合うことが意外と難しいのです。
なぜなら、私たちは幼少期、親や学校の先生などの養育者、社会環境などから「いい子でいること」「皆と同じであること」「いい成績を取ること」などで褒められることが多く、それにより愛情や良い評価を得られると学びます。
個々の特性や気質にもよりますが、「そんなのいやだ!」「できないよ!」という気持ちを表現し、ではどうしたらいいのか、ということを養育者と一緒に考える機会はあまり多くなかったのではないでしょうか。それにより養育者や社会環境が求める姿を「そうあるべきだ」と信じ込んだり、周囲を満足させたり評価を得るため、またそれに反した場合の罰を避けるためには「どうすれば正解か」を基準として行動するようになります。

これは他者に統制(束縛)されている状態で、自律とは背反するものです。そして、常に「うまくできないかもしれない」「うまくいかなければ自分には価値がない」という不安に駆られるようになったり、自分の本当の信念や感情を表現すれば、身勝手だと嫌われるのではないか、という罪悪感により悩むようになるのです。

深刻なケースでは、不安のあまり何かに依存してコントロールできなくなったり、自分の不安定な状態に気づかず毎日を義務的に過ごしているうち、ある日突然、蓋をしていた感情があふれ出し、うつ病などの症状が出ることもあります。

素直な感情に向き合えたとして、自分の中の「面倒くさい」「好きじゃない」「やりたくない」という思いに気づくこともあるでしょう。感情のままに無責任に行動することを、自分らしく振る舞うことと混同する考えもありますが、それでは人や社会と信頼関係を築くことは難しくなります。ここで大切なのが「自律性」です。

自律性とは、さまざまな自らの感情を受け入れ、それをどう表現や行動につなげるのかを主体的に選択、決定することで、人が持つ心理的欲求と言われています。「やりたくない」ことをするのかしないのか、「不快な気持ち」を人に伝えるのか伝えないのか、伝えるならどう伝えるのか、などを自由に意思決定するプロセスが「自律」であり、それにより自らの行為の根拠を十分に意味づけ、納得して活動に取り組むことができるようになると言われています。

例えば、「上司に不満があるけれど、口にしたら関係性が悪くなって仕事がしにくくなるので、今回はあえて黙っていよう」と自分で決めたのなら、ただ不満を感じて悶々と悩んでいるよりも、気持ちに折り合いをつけて納得して過ごせるようになるでしょう。

では、人が自律性を養うにはどうしたらよいでしょうか。それには、支援者の存在、役割も大切です。
世の中には時として面白くないけれど、将来、社会で役割を果たしていくには重要な活動もあります。支援者が当人の立場に立ち、励ますこと、その活動が当人の望む結果に結びつくと思えるよう適切な情報を提供すること、選択肢を与えながら決定させることで自律性が育まれていきます。そうすることで、誰かが援助の手を差しのべなくても自由に活動できるようになるのです。

アメリカの心理学者、エドワード・L・デジは、子どもは小さい頃は遊びを通して学ぶことに一生懸命なのに、学校に入る頃から学びに対する意欲を失ってしまうのは何故だろうという疑問を持ち、モチベーションに関する研究を重ねた結果、成長過程において自律に結びつく支援を受けられず、大人(社会環境)に統制されてしまうからだと結論づけました。

またデジは、人には「自律性」の他、「有能感」「関係性への欲求」という全部で3つの心理的欲求があると言っています。

「有能感」とは、何かを成し遂げて周囲に影響力をもちたい、影響を与えて何かを得たいという欲求で、挑戦のレベルが最適であるときにもたらされます。つまり、取るに足らないやさしいことでもなく、到底及ばない難関でもない、自分にとって意味のある挑戦に対しもたらされます。
さらに「自律性」との相乗効果で、その挑戦を自分で見つけてベストを尽くすことで達成感や生涯にわたる学習に繋がるということです。それに対する他者からのフィードバックも、自律性に基づいたものである必要があり、結果だけにこだわって賞賛するものとなっては、前述したケースのように他者の評価ばかりを気にして自信を失うことに繋がりかねません。

「関係性への欲求」とは、人は自由で自律的でありながら、他者と結びついていたいと願っているということです。それは愛し愛されたい、思いやってあげたい、思いやりを受けたいという欲求です。
この欲求により、人は周囲に順応しようとし、身近な集団や社会の価値観、ルールを受け入れようとする責任感が発達すると考えられています。ともすると、他者と結びつくためには自分の感情を放棄しなくてはならないとか、逆に自分の感情を優先するなら「世捨て人」として生きるしかないと考えられがちですが、うまく支援を受けるなどして真の自己を形成できれば、より大きな責任感が発達し、他者を尊重し、何が必要とされているかに応じて意欲的に行動できることになります。

自律性やさまざまな経験を妨げるもう一つの要因には、世の中にありがちな「幸福になることが人生で欲しいものの全てである」という信念が挙げられるかもしれません。ただ、実際には人生はさまざまな経験に満ちていて、人は成功し、失敗し、関係を築き、愛する人を失うこともあります。
もちろん、望んでいないこともありますが、これらの経験に伴い、愛する人が亡くなったときは悲しみ、危険に直面したときは恐怖を感じるということは、人生の変化にうまく適応していくために必要といえます。
生きていることの本当の意味は、単に幸福を感じることではなく、さまざまな人間の感情を経験することであり、自律的であれば十分に経験した感情をどのように表現するのかを自由に選択できるのです。

自ら選択して行動していく感覚は、結果や評価だけにとらわれない、自分らしい人生を歩んでいるという自信に繋がるでしょう。

参考文献:「人を伸ばす力」 ~内発と自律のすすめ~ エドワード・L・デジ、リチャード・フラスト著/桜井 茂男監訳 新曜社